取締役の任期にまつわる潜在的リスク



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取締役の任期にまつわる潜在的リスク
企業法務
 令和元年8月29日 公開


取締役の任期は何年に設定しておくのがベストでしょうか。上場企業、中小企業、スタートアップベンチャーではそれぞれ状況は異なりますが、本コラムでは中小企業、スタートアップベンチャーにとってベストと思われる任期について考察していきます。

また、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社については考慮していませんのでご了承ください。


取締役の任期

公開会社と非公開会社で取締役に設定できる任期は変わってきます。

 公開会社  → 最大2年(会社法332条1項)

 非公開会社 → 最大10年(会社法332条2項)

まず、上場企業ですが、取締役の任期は1年か2年です。

中小企業、スタートアップベンチャーでは最大の任期である10年にしている会社が多く見受けられます。

これは、会社の設立時に取締役の任期を10年に設定し、そのままにしている会社も多いのではないのでしょうか。

コスト

コスト面ですが、任期が1年の会社の場合、毎年の定時株主総会の終結時に取締役の任期が切れることになるため、登記も毎年しなければならず専門家に頼む場合、登記費用もかかってきます。

任期が10年の場合、10年に一度の定時株主総会で取締役の選任をすればよいため、コストが一番かかりません。

そのため中小企業、スタートアップベンチャーの場合、任期を10年にしている会社が最も多いのではないのでしょうか。

任期が長期の場合の問題点

任期を10年など長期に設定していた場合、通常の会社運営上、特段支障はありません。

では、どういった場合に問題が生じるのかというと、「あの人に辞めてもらいたい」と思った際に、初めてリスクが顕在化します。

例として、任期10年の会社に取締役Aを新たに迎え入れた場合を想定します。

思ったようなパフォーマンスが出ていない、あるいは一緒に仕事するのが辛い人、など様々な理由が出てきてしまったため、早々に取締役Aに辞めてもらいたいと考えた際に、会社が取れる方法としては

  1.辞任届を出してもらう
  2.株主総会で解任する
  3.株主総会で任期を1年に変更する

といった方法が考えられます。

ベストな決着は辞任届を出してもらうことです。お互いの関係がこじれていなければ難しくありませんが、関係がこじれていた場合は辞任届をもらうことは難しいでしょう。

そうなった場合、解任するか、または株主総会で任期を10年から1年にする定款変更をすることで、次の定時株主総会で任期満了退任をすることができます。

解任にまつわるリスク

株主総会で取締役Aを解任することは可能ですが、以下の2つのリスクがあります。

  1.損害賠償請求(会社法339条2項)
  2.謄本に解任の文言が記載される

まず、損害賠償請求ですが、解任理由に正当性が無い場合は、解任された取締役Aに認められる権利です。

今回の事例でいえば、残存任期分の所得を会社に対して請求することが可能です。

仮に年間報酬額600万円(月給50万円)であった場合は、600万×9年の5,400万円の請求が可能となるリスクがあります。(残存期間一杯まで認められるかは個別的な問題になります)

次に、謄本に解任の文言が記載される問題ですが、これはそのまま登記簿謄本に「●年●月●日解任」という文言が記載されてしまいます。

解任は避けるべきもの、という認識はスタートアップベンチャーもVCも持っているので、解任されたということはそれなりの問題が内部で勃発したのだろうと推測されます。

会社の謄本はお金を払えば誰でも法務局で取得できてしまうので、投資家回りをした際に、何らかのトラブルが取締役間であったのだろうと推測され、ヘタをすれば投資を避けられてしまう可能性も否定できません。

実際に解任した場合どうなるか

実際に私が目撃したケースですが、それまでは順調に資金調達を進めてきたスタートアップベンチャーが、取締役を解任した途端、次の資金調達が上手く進められなくなった事例があります。

原因が解任に全てあるとは言い切れませんが、誰でも問題を抱えた会社に投資したいとは思わないでしょうから、少なからずそれが原因の可能性はあると感じます。

任期変更にまつわるリスク

では、任期を10年から1年に変更した場合はどうでしょうか。

こちらは登記簿謄本に「●年●月●日退任」という文言が記載されるため、解任のような登記簿上のリスクはありません。

損害賠償についてですが、定款変更で任期を変更した場合も会社法339条2項の類推適用により、損害賠償請求が認められる判決が出ています。(東京地判平成27年6月29日)(※こちらも損害賠償請求が認められるかは個別的になります)

つまり、任期途中での解任または任期短縮の変更は、いずれも損害賠償請求をされる可能性があります。

リスクの回避策はあるか

残念ながら任期途中での解任・定款変更での任期短縮はいずれもリスクを避けることはできないと考えます。

取締役が1名の場合、任期に関する問題は発生しませんが、他の方を取締役として迎え入れる場合は、任期についてよく考えて設定しておくべきです。

何となく任期は10年にしている、という会社は多いですが、潜在的なリスクを認識していただければ幸いです。

損害賠償請求をされた場合は、代表取締役の貴重なリソースを本業以外に振り分けることになりますし、精神的にも疲弊します。会社の他のメンバーにとっても、投資家にとっても全く望ましいことではありません。

任期についてどう設定すればよく分からない場合、貴社の状況をヒアリングした上で、適切な任期をご提案いたします。

ご相談は無料ですので、お気軽にどうぞ!